適当な投擲 〜括弧付きの毎日
寒波襲来
 朝。目が覚めたら(7時ちょうどだった)、体の左半分が布団から出ていて、死ぬかと思った。寒さで。慌てて布団にもぐりこんだ。

(そう言えば、今日は大寒波だって天気予報で言ってたなあ)

 嫌だなあ、布団から出たくないよう、寒波で学校潰れないかな、無理だな、じゃあ寒波で電車止まんないかな、無理だな、それにどちらかが起こるにせよ布団からは出なきゃいけないしな、と20分ぐらいうだうだしてた。こんな風だから行動を5分前倒しにするなどできるべうも無いのだ。

「エイ、ヤァ!」

 所詮世の中気合よ気合、と精神論を奉じ、やっとのことで布団をはねのけ奉った。

 体をさすりながら1階に降りて母におはようと言うと、母は「おはよ、寒いよ今日は」と明るい声で答えた。そう言う母は暖房も行き届いていない台所でテキパキと卵焼きを作っている。コンロの前にいるとはいえ、たいして厚着もしていない。私が大きくなったら、こういうのが「思い出される母の風景ベスト10」とかにランクインするのか知らと思った。

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「じゃあ行ってきます」

 そう言って外に出て、私は立ち止まった。

 息が。吐き出す息が緑だったのだ。まるでスナフキンの服のような緑だった。

「はぁっ!?」

 びっくりして出したその声も、緑の息となってもわっと浮かんだ。

「はーっ、はーっ! ほーっ! ひーっ!」

 その場で何度も息を吐くものの、それらは見慣れた白い息とはならず、鮮やかな緑となり冷え切った空気を染めた。私は周りを見回した。向こうから自転車の中学生が来た。よほど急いでいるのか、彼女は精一杯の立ち漕ぎで通り過ぎた。緑の吐息をあたり一面に撒き散らしながら。

 「あらクリ江ちゃん、おはよう」

 いまだ玄関先に立ち尽くす私に、ゴミ出しに出てきた隣のおばさんが挨拶してきた。緑の息がおばさんの髪の毛にまとわりつくように立ちのぼり、おばさんがドリフの高木ブーのように見えた。

「あ、おはようございます……」

 とりあえず、私だけじゃないんだなと思い、駅に向かった。

 歩いていて、色んな人の息を見て分かったのは、人によってその息の緑具合にも微妙な違いがあるということ。私みたいにスナフキン色をしている人(若い女性が多かった)もいれば、薄い、抹茶のような色をしている人もいた(これもキャラクターに例えて「ガチャピンのような」と今言おうとしたけれど、抹茶の方が風流だ、息だけに粋だなと思い直した)。

 もしかして、普段の白い息にも人によって違いがあるのかもしれない、だけど白はあんまりその違いが目立たないのかもしれない、白いのが当たり前だからみんなその違いなんて気にしてないというのもあるだろな、そんなことを考えながら、

「みんな違ってみんないい」
「ナンバーワンよりオンリーワン」
「私、配る! 私、踊る!」

 とそれっぽいセリフを口に出したりした。だけど息は緑なので雰囲気はまるで無かった。


 駅で、私がいつも「ちょっといいな」と思っている同じ高校の男の子を見たけど、友人と話している彼の息が、青汁のような、汚い緑だったので幻滅した。